【講演レビュー】Part2 : 仁術より算術?

  • 2017年09月04日

【講演レビュー】Part2 : 仁術より算術?

 

 

 

先日のインタビューは、「医は仁術か算術か」と悩んでいる先生も多いということで、貝原益軒の『養生訓』を元にお話頂きました。

『養成訓』の中にある「専ら」という言葉が「医は仁術」という拡大解釈の一人歩きを生んだと考えられ、その時代は身分制度があり、医療が公平に受けられなかったということにも触れました。

 

では現代はどうなのでしょう。

今回はその「算術」について。

 

国公立ではない医療機関は自分たちで経営もしなければなりません。

「医は算術」という考え方自体も、もともとは大江雲澤という中津川の藩医が書いた「医は医者次第で善にも悪にもなるので医者は常に謙虚に患者のために尽くすべきである」という言葉からの誤訳であって、「人ならざるの術」という言葉を勝手に「医は算術」という解釈へ繋げてしまう人がいたからなのです。

そして「医は算術」という言葉がしきりに出てくるようになったのは、九州大学名誉教授の田中先生が日本医師会雑誌に書いた「薬害エイズやオウム等、一部の人間のモラルの欠除が人を苦しめて殺す場合もある」という一文もきっかけとなっています。「医は仁術ならざるの術」(なかなか仁にならないもの)なので、勤めて仁をなそう医者は偉くて無条件に医療をすることは善なのだということではなくて医者次第で善にも悪にもなるのだから「謙虚にやりましょう」ということです。つまり、ここにも全く「医は算術なり」などとは書かれていません。

 

医療コンサルタントの間違ったアドバイス

医が算術だと言い始めたのは、医療コンサルタントと言われる人たち。医療コンサルタントはいわゆる一般企業を相手にしたコンサルタントで成功できなかった人たちも多いように感じます、そこで個人が経営する医院を相手に商売を始めるのです。世間知らずの歯医者さんも多いですから。そういう医療コンサルタントが勝手に「先生、医療は算術ですよ」と言うのです。

もちろん、算術も大切です。つまり医療というのは算術、仁術と単純に言い切れるほど単純なものではないということなのです。

 

算術ついて

仁と算のどちらか一方を選択して重きを置いた経営をするというステレオタイプに凝り固まった場合、算術へ偏るとどうなるでしょうか。

そうなると、過度な投薬、ホワイトニング等自費診療になる治療ばかりする歯医者さんが多いように見受けられます。治療の流行りを追いかけすぎたり、アロマセラピーやアンチエイジングまで取り入れ施術の範囲を広げたりする医院もあるようです。アンチエイジングと噛み合わせの関係性はゼロではないと思います、しかし実際の治療で結びつけるにはエビデンスに乏しいのです。しかし、そういった流行にはまってしまう先生も多いようです。収益効率を考える歯医者さんというのは、歯医者さんに限らずですが、ベッドやチェアが早く空くように、治療の回転ばかりを優先しをてしまいます。

 

一方でスタッフの教育することや、患者さんとしっかり話をすることは、どんな医療でも重要なことです。ヨーロッパ等では、以前から患者さんと話をすることがとても大切だとされています。「病は気から」という言葉もあるようにあるように、自分の病気はどんなところからくるのか、といった患者さんのメンタルの真理を医師に聞いてもらいシェアできるだけで症状の改善に繋がることもあるほど、患者さんとの対話は重要とされているのです。「インフォームドコンセント(充分な説明を受けた後での同意)」という言葉も少しずつ広まっています。

 

良い歯医者さんと言われる医院には、カウンセリングルームがあることが多いのです。患者さんが医院へ入っていきなり診療となるわけではなく、どんな施術や治療をするのか、そしてそれはなぜなのかを伝え、そのメリットとデメリットをきちんと説明し、アドバイスもするのです。特にインプラント治療は手術ですし、一度治療を始めたらメンテナンスが必要となります。そういった際に分かりやすい説明をする医院が良い医院です。インプラントは高額な治療で、人口の歯を入れるわけですが、虫歯にならないわけではありません。きちんとメンテナンスをしないとまた虫歯になり、そうするとせっかくの治療が台無しです。インプラントをしたら、もう虫歯にならないと思う患者さんも多いようですが、虫歯にはならなくとも歯周病の可能性はあるのです。そういった詳細をきちんと伝える、そして患者さんと対話をする時間を割く。例えば生活環境や食べ物、そして習慣も聞き出して歯周病や虫歯になりにくいようアドバイスをするということも重要です。パートナーが歯周病でも、歯周病は移ってしまう疾患だということはあまり知られていませんから。そのように、患者さんの教育をするということはとても大切なことなのです。

 

仁術とは

では仁術に偏るとどうなるのでしょう。

仁術を重んじる医院は儲けてはいけないと思うのですね。そうすると保険診療しかしない。「うちは保険のきく診療しかしません」と言うのです。ところが歯医者の治療は65%は自費診療、保険でカバーできるところは35%しかないというふうにも言われている現状で、保険診療しかしないとなると、それは必ずしも患者さんのためにはならないかもしれません。

 

また、仁術の方に偏る先生は「私は医者だから、プロなのだから、とりあえず私の言う通りにしなさい」「患者さんはいろいろ考えず、心配せず医者に任せなさい」と言ったり、患者さんが質問をすると機嫌が悪くなってしまう先生もいます。そういう先生は、プロだというプライドが良い意味でも高いのですが、「何も聞かずに任せておけばいい」と思ってしまう傾向もあり、患者さんとのコミュニケーションが不足するという結果に至るのです。それは結局先生のエゴとも言えるのではないでしょうか。

 

医療コンサルタントのアドバイス

「医者はサービス業です」と言うコンサルタントもいます。財務やマーケティングのプロのコンサルタントからすると、そのようなコンサルタントはどのプロでもあいません。例えばですが、元広告代理店にいたとか、大企業にいて営業部長やマーケティング部にいました、という知識の偏った方々が多かったりします。医院を経営する医師の皆さんは社長と同じですから、コンサルティングが必要なのは全てのフィールドにおいて、なのです。元キャビンアテンダントだった女性が医師や歯科衛生士の方々に接客の仕方を教えるという話を最近よく聞きます。彼女たちは「患者さん、ではなく患者さま、ですよ」と言うのだそうですが、それは患者さんの気持ちをよくするというサービスに偏りすぎてしまい、甘やかしてしまうことにもなりかねません。個人的な考えですが「患者さま」というのは、間違いだと思います。もしも自己管理がきちんとできていたら、私たちは「患者」にはなりませんよね?自己管理ができていないから患者になってしまうのです。風邪や癌のように避けにくいものは別として、例えば糖尿病のような疾患は生活習慣が大きな原因です。それは、極端に言えば自己管理ができない人のために私たちの税金が使われているということでもあります。健常者の視点で言うと、病気は自己管理の結果であるとも言えるのです。医療費が下がれば、私たちが負担する税金も減るとも言えるのです。

2025年という問題も、懸念されている今、それは大きなトピックだと思います。日本はどんどん高齢化していき、若い世代の人口が減っています。生活習慣を改めずにいろいろな病気になるのは自己責任です。ですから日本では「患者さま」ではなく「患者は患者」なのではないでしょうか。逆に、医者は「お医者さま」ではなく、「医者」だと思います。

 

患者さんの金銭的負担ばかり気にする医者もいて、「バイオガイアの商品は¥3000-4000でしょう、高過ぎます」とすぐに言われることもあります。しかし、本当にその医師が患者さんのことを考えていたら、仁の気持ちを持っていたら、患者さんの収入の中で果たして¥3000が高いかを一度は考慮するでしょう。その患者さんの生活の質が上がるのであれば、高くはないかもしれません。その金額を投資することの意味を患者さんに明確に伝えることこそが医者の仕事のはずです。「保険はきかないのですか?」と言う患者さんのところには、患者さんの金銭的負担を心配する医師が集まり、患者さんは皆の税金で治療ができているということに気がつかないことが多いのです。

 

次の世代への心配り

スウェーデンは予防の意識がとても高く、高齢者は自分たちが病気になると若い世代に負担をかけるので、予防に投資することが大人のすべきことだと思っています。昔で言うとゴミの有料化に似ています、ヨーロッパでは人々が早くからそういった意識を持ち、ゴミを減らす努力をしているのです。社会参加意識が高いのですね。

 

日本はそれに比べると社会に対する意識が低く、税金が使われることは自分たちの権利だと思っている方も多いと感じます。しかし、税金を使うことは決して権利ではない。ありがたく使い、病気を治すもののはずです。自分の子供や孫の世代に負担をかけないよう自己管理をしようと意識し、例えばそのために¥10000かかるのであればそのようにすべきなのではないでしょうか。患者さんにお金をかけさせないことが「仁」なのではありません。病気にさせないことが「仁」ではないでしょうか。病気になってしまった方を治すことも勿論「仁」ですが、病気にさせないことの方が重要なのです。それを忘れて、目先の患者さんの負担を気にするというのは、間違っているのではないかと思います。

 

ハイブリッドな医療モデルへ

これまでお話したケースは、実はどちらも患者さんにとって良い医院ではありません。どちらのタイプの医院も評価は低いはずです。

一方は薬ばかり多く出し様々なものを売りつけようとし、もう一方は最先端の医療の情報や機械を得ようとしない医院。こういった医院は算術やマーケティングを軽視して、新しい技術の導入もしないのです。新しい技術や機材を入れることは投資です。投資をしない医院は痛くない治療の導入等もしませんし、マーケティングをして新規の患者さんを獲得しようという努力もしませんので、必然的に今抱えている患者さんからできるだけ多くの金額を吸い上げようとしますが、それはなかなか難しいことです。その結果病院が貧乏になり、益々投資が難しくなるという悪循環に陥っていきます。財務を軽視しているこういった医院は経営社でもある先生の心の余裕もない為、患者さんが気持ちよく治療を受けられる場所ではなくなっていくでしょう。

 

現代の医療に患者さんが求めるものは何か。

それは、(江戸時代の「仁か算か」というようなレベルではなく)真面目で勉強や研究熱心な先生、真剣に治療に取り組む姿勢、患者さんのためにベストを尽くしてくれること等。それは当たり前のことですから、仁術は当然必要です。一方で算術も軽視できません。健全な医院経営ができていれば、活気に溢れ、それは信頼に繋がるからです。

健全でない医院は医師が衛生士さんに冷たくお給料も安い為、衛生士さんたちもそこで働くことに感謝できていないという場合が多いのです。そうすると当然利益にも繋がらなくなっていくのです。経営がうまくいっている医院はお給料も良く、衛生士さんたち勉強会・学会に参加することができます。利益を産むことができない医院は、何万円もする参加費となってしまいは衛生士さんたちの負担になるでしょう。更にそういったところへ参加しないと、衛生士さんたちのキャリアアップにも繋がらないという悪循環が起きます。例えばホワイトニングの施術ができるようになるには、勉強会等に参加することが必要ですし、高価な辞書や本も買わなければならないこともあります。

 

算術ができている医院は機材も揃っていますし、最新の設備が導入されています。一般的に医療機器は最新のものが良いとされていますから、最新鋭の機器が揃っているというのも重要なことなのです。患者さんも綺麗で快適な医院が良いと感じるのは当然でしょう。できれば駐車場の用意もあったほうがいいかもしれません。ビジネスを考えれば、そういった思考回路になっていくのです。

 

仁術や算術ができていても技術がなければ、病院が綺麗でサービスも良くても患者さんが辛い思いをすることになります。やはり技術が一番重要なのです。技術というのは「腕」ではあり、腕を上げるためには学会等に参加し勉強をすることが必要です。そこには最先端の情報や技術も含まれます。

 

同時に経営には戦術も必要です。このネット社会に対応できなければ、患者さんが歯科医院を探す際に選択肢に入れないことも多いからです。どの歯科医院が良い医院なのかを、どう見つけるのか、を考える必要があるのです。歯が痛いのか、矯正が外れてしまったのか、ホワイトニングがしたいのか、という要望に合わせた検索ができるようウェブ対策がされていなければ生き残れません。昔と違い、近所の看板を見て歯科医院に入る時代ではありませんから、各医院の強みを明確に訴えることが必要になっているのです。検索されたとしても、その医院のウェブサイトがきちんと作られたものでなかったら患者さんは呼べません。最近では、病院のミシュランのような格付けサイトもありますが、たくさんの患者さんが評価をしていなければ信憑性のある評価とは言えませんから、まだ充分に普及しているとは言えません。情報がとても限定的にしか提供されていないのです。また、各医院がそれぞれの専門性をきちんと打ち出すことができ、患者さんのポジティブな声とそうでない評価を両方とも掲載できれば、信頼度の高いウェブサイトとなるでしょう。それが戦術の一つと言えるはずです。

 

この戦術と技術と算術を仁の気持ちをもってするということがとても重要です。仁の気持ちを知り、算術・技術・戦術がしっかりとリンクしている状態。仁術か算術か、ではなく、それぞれの良いところを採用していくハイブリッドな医療モデルがこれからは大切になっていくでしょう。

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